水の竪琴

永遠の岸辺
音無しの風のした
雄大な海洋と面しながら
潮騒はやさしい
悠久の水鏡

竪琴は砂に半ば
乙女の指尖待つそこで寄せる瀬を識るが喪失を兼ねる

刻に鳴ればそれ
琴の音だけが感応とただ
瀬を識ればそれ
断ち消えるまでの一時がただ

瀬は寄せる
竪琴が震え
空間に心を波及させる
鳴る今がそれ
世界に色彩を広げゆき
雰囲気を滲み出させる
鳴る今だけが
唯一の認識

瀬は
必ずや返る
思いを
生まれた速度で洗い流し
泡沫を散らし
そしてこれまでのように
竪琴は未だ其処に在る

いつか一人の乙女が
── 喉を潰した
いつか音を失い
── 色を忘れる
いつか現われ
永遠の岸辺で限りない空を見あげる

聾唖の娘は
膝を抱え
色弱の瞳で竪琴を微笑む
思う色をつける
思う音を奏で
思いを詩にした
その
初めての言葉

娘は唄う
娘は彩る
娘は気持ちを動かしながら
太古の水境でおなじ姿を垣間見る ──
予見した

娘は躊躇う
爪尖で砂を掻く
瀬が埋める
すこし冷たい

息を呑むと
渚が当然を振る舞う
波は泡たつ
潮騒が意識を包囲し
一斉に溢れ返る
見ていると綺羅綺羅とする
音が速度を
追ってゆく

渚は当然を振る舞う
寄せては返しと
繰り返し
繰り返していた

永遠の岸辺
姿は無い
竪琴も消えて



風

空

記憶

とそのうた





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