漂白

心のちいさな部分を
指の腹で
やさしく叩き続けているピアノの音
もう
随分と長いあいだ鳴り続けていて
揺さ振られるのに
いっこうに解決しようとはしない

夜には全身を映せるほどの姿見
 しかしいまは
まばらな雲が流れてゆく
 すなわち二階の窓辺

少女は針金に画用紙を張り
  翼を夢見ている
それを胸に抱え
  空を諦めている
   いうなれば日常への愛

白い鳩は手紙を運ばないといわれている
 翼をひらく
  扇のように
   軽やかにひらく
しかし表情はもたない

ふたりはピアノを聴いている
ひとりは手摺をカツカツと歩く
ひとりは翼を抱えたまま
ピアノを感じ
終わらない空を見上げる

それが静かな事実だった
たとえるならば
ミイラになるミイラ盗り

そこからは
自由と空だけの世界

はたして
 どのようにはばたけよう
そこからは
 どのように夢をみるのか

  「答えはいつも手近にあって
   生まれた衝動を溶かしてしまう」

    少女は胸もとの翼を放す
   両手を下ろす
  扇のように
 力なく下ろす
けれどこの空に――
 軽風にその髪を
撫ぜられる





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