愛

空を分けゆくこの丘の速度も
温もる微睡みと溶けあって
既視感はルフランをつづけていますね
意味の薄い決めごとの言葉と ──
鼓動を聴くのは
その受肉した
みなそこをつたって

初めて言葉を交わしてから
ずいぶんとトキが流れました

初めて理由を語ってから
ずいぶんとトキが流れましたね

わたしたちは ──
これほどの奇跡のなかなのに
それを甘受できていない

わたしたちは ──
実に多くの対象にそれを
与える余力を、残しているのにね

とても深い
磁気に浸かった記憶のそこ
鈍色の輝きに包まれて
波打ちぎわで掬った海からは
手にあまるその訳がこぼれ落ちました

滴る輝きの一つひとつが遠方のわたし

掬いとることのできた海のなかで

わたしは ──
あなたたちに含まれている

あなたは ──
わたしたちに含まれている

凍傷をぬくませる麻酔の風はふかない
偽薬だけが媚薬となり
手のひらを貫いたラインストーンは
求めた心とワルツを踊る
クリムゾンの刃渡りはその手記を溶けあわせ
兆しは膨大な血と肉で洗われ
ならべられ
組み替えられ
ディスクオルゴールのピンになる

そう

だれも見ていない川縁の梢で

つがいのカワセミが

おたがいを毛繕う

そのことを

だれも見ていない

ほんとうのそれは

だれもが知っているのに

語られることを求めていない

つがいは空を称さない

つがいはそれを称さない

みなそこに

ただそれが

そっとあるだけ





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