黒曜のつばさ

つめたい光の殺伐のなか
あかるむ暖色の点滅を数えつつ
あの高貴な網膜が
白銀を一身に舞い降りる

横向きの針と空を睨む
やさしさと微睡みの流れのなかで
いわれのない自らを知らず
痛みを知らず爪を磨ぐ

朝には乱雑なリズムがある
メロディーになる前の単音の沸きたち ──
沸きたつ地表
暖色がすべてを溶かしゆき
それ以上に
その胚を数えてゆく

艶やかに千切れる桜色の繊維 ──
奥で輝くものを喰らい
朝のリズムを
その耳で数える
せまい額がすこしだけ温もる
風上を一睨し
冷気のただなかで孤立する

新たな網膜が舞い降りる
白銀を一身に
暖色に
ひろげた翼を点滅し
優雅に伸びやかなそのすがたで
ほとんど水平を眼差して
滑空する

網膜よそこで貫け
その胸もとが
気流の層に触れようという
こわばりを

「お前が見よう美しさは
  すべてお前のなかにある」

そして ──
これから翼を使おうという
微かな動作を兆候に
わさりと朝を抱きかかえ
眼差しをいま
上向かせる

それがたとえようもない
完全な眼差し

その瞬間が
永遠に胸にあればいい





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