生命の木


なんども忘れてゆく風景
ペン尖で紙を見る黒曜のしずく
紋章の印された鍵だけのキイ
閉鎖され、砂絵と気づいたそのときだけの球体のなかで
点の鏡がキンと鳴りながら待っている
潮騒や喧騒はずっと
下の方にある

おとなたちは
風と影と空鳴りをみおくって
微笑みながら目蓋を伏せた
女の子たちは気に入った手提げに似姿を詰めて
メロディーの故郷へと足早にむかい
男の子たちは広場に落ちている
よく見るとどこか個性的な石を探しては
きみたちは影を長くした

おとなたちは
ダンスと過呼吸に酔っていた
女の子たちはルールの相談に飽くことなく
男の子たちはじっと
シナリオの配布を待っている

きみたちをすべて知っていた

点の鏡の輝きのなかに
いちばん欲しいものがあるのを知っている
だから遠ざけて回りくどい呼び名にして
キューブに組み込んで引き出しの奥に仕舞い込み
すっかり忘れてしまうがために
膨大な別称を書き殴る

忘れた頃に思い返す
胞子をまき散らしその虚脱に酔ったりして
痛いけれどすべては狂ったカラーバランスのなかにあり
あらゆることがなにかひとつのことに繋がっていて
ぜったいにそのことを
忘れつづけてゆかなくちゃいけない

砂の波打つ焦土の上に 
全身を映し出す姿見が孤立する
あなたのことだけを待っている
きみたちは完全に映り込まない
砂漠の世界に風はそよぎ
大海は奥底に揺らいでいる

輪の水の通り道になっている 
通ったときの音程だけを
ことなる書式で記述できる
あなたのことだけを忘れない
打ち消しあえる流れだけが
水瓶にみちた葡萄酒を
もとの清らかな水になおす

針のさきよりも小さな輝きに 
物語やメロディーをつけようとしている
肥沃の土へ水のよろこびを待っている
風を見たならば腕をつばさに
丘を知るならば奔馬の脚に
呼びかけて
話しかけようとして
話しかける

いつかこうやって話したよね? 
いつの日もこうやって
話してたよね?
戴冠を胸に知るわたし
従者となりそのすべてを
そっと忘れてゆくのもわたし
巻き込んだ指紋が手の平にぶつかる
その空をきっと
埋め尽くすピジョン

温もりのなかには
帯磁した痛みが遅れてとどく
点の鏡がキンと鳴って
(ふりかえる)
腕のつけ根がこわばると
葉のざわめきが翼をひろげ
(立ち尽くす)
重み
量
ビリジアンのモザイク
満ちた
虚空

きみは




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