風のアルカナ

手の平にだかれる
波紋の上の乳飲み子
吐く息をかすめる細やかな掻ききず
踊り子たちの短い影
巡る影
土を叩く
素足の潤いと温かさと
万物万有の絆の唄に
いまも流れでる世界のつづき

預けられる絡みあう螺旋の向こう
唄の向こう
空に
真昼の月は満ち欠けて
南へむかう群れがよぎると
とても遠いピアノのたえだえの音色よ
事切れる予感を
とこしえに裏切って

乳飲み子は洗われて水はしたたる
たくさんの重力
肌を皮膜した水はそこから
川の名を冠し
いつしか海に還りつき
岩礁に立て掛けた刃渡りのような光のしじまの向こう
波光の手前
南へむかう群れはならんで
境界は無くなり
全域に
乳飲み子の声を響かせてゆく

そして空はたった一枚の水彩となる
── 海はたった一枚の油彩となる
人はみな一人きりの全宇宙となり
夢となり手応えを失って
けれど風が

そのころ少女は
ミランダのような小石の並ぶ
断崖に沿った小径を歩いている
言いつけられた朝摘みのハーブを小脇かかえ
海からの冷たい斜陽にのされた影の手足を大きくふり
そこでは誰からも見られていないのに
(意地悪をすることだってあるのに)
笑顔のまま坂を下り
詩をすりぬけ
(置き去りになるこどもの匂い)
肩をはずませるその背すがたで
潮風に髪を靡かせる

クロマツが潮騒にむけ懸崖している
水面から万感のデータが滲みだし
空はただひたすらに懐抱をつづけて



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