グリーン

エバーグリーンの光彩にみちている
地球儀のなかを歩いていた
衰えた視力の先に立ち上がってゆく
思い出が裏づけて現像してゆくものに
この躰を浸して
わたしは
風の味を飲み込んで
額の汗を手の甲でぬぐった

覚えているものを組み合わせ
見たことのない
行ったことのないその場所の
風景画を描いていった

イーゼルにのせたままの
それらを眺めた
時計回りに木椅子を回し
絵の中に佇めるようになるまで
それらを見つめた

絵の中に自画像を描いていった
絵の中に置いた木椅子に座り込み
膝に肘をつき
自分の面影で描かれた
知らない自分を時計回りに
眺めていった

知らない自分と知らない人が
似たような
あるいはそれとは違う音楽を交わしあい
もはやこだわりはなく
次にはすこし違うようになり
うまれたばかりの風景画に含まれては
色褪せることを良しとし
また色づくことを良しとした

多くの絵が
灰色のノイズの上に描かれていった
色のない領域を減らすために
なにかをすこしでも想うようにと
地球儀のなかを歩いていた

手のとどくところに
一枚の若い葉が舞い踊り
手に取ると緻密な葉脈が見てとれ
見上げると視界はあざやかになり
あの懐かしい
こどものからだのなかにいた

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