格子状のソレイユ

えいえんという名の手のひらのうえで
昨日をまだみぬ夢のようにして
待ちわびていた

サンセット
しりぞいてゆく色彩とぬくもり
オービターを流れてゆく無数の発想と
誤った指運が選びだす偶然のフレーズ
砂色のページに印象をのこす
振り子の揺らめきと
こわい合金の表層で砕ける
はかない秒針のかけらたち──
そのいたためれないノイズ

なにかを傷つける勇気を持っていた
なにかがおこなえると信じ
その美しい横顔にいきを忘れ
なにかを足掻こうとしてみたりした

なにかを知りたいと願っていた
なにかを良くしてゆけると信じかけていたし
なにかを愛し
愛せないなにかに
やさしくできると思いかけていた

サンライズ
描き変わるサンセット
皮膚のかゆみに酔いしれていると
すべてがまた潮騒に包まれる

海鳥はうたい
ちいさな翼は
書き換えたばかりの瀬のきらめきを駆けていた
波打ち際を歩いていた
思わぬものが拾えるかなのと歩いていた
潮風に巻かれ
歩みには億年ついやしたけれど
貝とガラスと汚らしい樹脂のかけらしか拾えなかった
波に洗われたガラス片は
きれいだった
わたしは絶えず月というからのなかにいるのに
それらはまるで手のひらのうえで
きれいだった
沖からの強い風と潮騒に抱かれ
ノイズが晴れると
背景放射しかきこえなくなる

//プラチナ色に輝く穂のスロープをのぼってゆくと
あたりに羽虫たちが泡立って
──いつしか広大な草原に辿りついた

サンセット
やがて希薄な藍色の積み重なり
深い闇のむこうへ
ケイオスの残り香をたぐり
その向こうへ
力なく伸ばした腕の指さきには
赤くの滲んだ組織や体液は付着していなかった(なぜ?)

クレーター
名ばかりの大洋
それら砂の太陰は全天となって
音だけになった草原を照らし出す

大きなまるい輝きのした
これまでのことを忘れてしまうまで
歩き続ける

すっかり忘れてしまうまで
歩き続ける
歩いていると──

※付録
手のひらが小さくてちからないころ
光がさしこんで何かが見えるだけでうれしかった
朝になると鳥が鳴いてうれしかった
自分で思ったように
指先がうごくようになりうれしかった

それらを覚えてゆけるだけで
うれしかった

強い痛みや
それが和らぐこと──
どんなことでも感じられるだけで
うれしかった

あなたは何をよろこぶだろう
わたしは次にそのことを出来る(た)だろうか

わたしはいつか
あなたに会いたい

きみのことが
大好きだから




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